
eラーニングを制作する方法と失敗しない進め方
社内研修のオンライン化や教育業務の効率化を進めるため、「eラーニングを自社で制作したい」「既存の研修教材をオンライン講座にしたい」と考える企業が増えています。
一方で、いざ制作を始めると「何から決めればよいかわからない」「動画を作ったものの受講されない」「LMSでうまく配信できない」といった問題が起こりがちです。
eラーニング制作で重要なのは、単に紙の教材を動画やスライドに置き換えることではありません。対象者や学習目的を明確にしたうえで、教材を設計し、制作、公開、効果測定、改善まで一連の流れとして考えることが大切です。
この記事では、英国大学で教育工学博士号を取得した筆者が、企業の人事・研修担当者やDX推進担当者に向けて、eラーニングを制作する方法を5つの手順に分けて解説します。内製と外注の違い、費用を考える際のポイント、制作時の注意点についても紹介するので、自社に合った方法を検討する際の参考にしてください。
eラーニング制作の基本を最初に押さえる
eラーニングと紙教材や集合研修との違い
eラーニングとは、インターネットなどを利用して、パソコンやスマートフォンから教材を受講できる学習方法です。
紙の教材や集合研修と比べて、時間や場所に左右されにくいことが大きな特徴です。受講者は業務の合間や自分の都合のよい時間に学習でき、企業側も同じ教材を複数の拠点や部署へ展開しやすくなります。
また、LMS(学習管理システム)と組み合わせれば、受講状況やテスト結果などを管理することもできます。研修担当者が一人ひとりの受講状況を確認する手間を減らせる点もメリットです。
一方で、集合研修のように講師と受講者がその場でコミュニケーションを取ることは難しくなります。そのため、eラーニングでは「説明する」「考える」「確認する」といった学習プロセスを教材の中に組み込むことが重要です。
たとえば、単に講義動画を配信するだけではなく、動画の途中に確認問題を入れたり、最後にテストを実施したりすることで、受講者が受け身になりにくい教材を作れます。
eラーニング制作が必要になる代表的な場面
eラーニングは、さまざまな企業研修に活用できます。
代表的なのは、次のようなケースです。
- 新入社員研修
- コンプライアンス研修
- 情報セキュリティ研修
- ハラスメント研修
- 商品・サービス研修
- 営業研修
- 業務マニュアルのオンライン化
- 資格・技能研修
- 社内ノウハウの継承
- 顧客向けのオンライン講座
特に、毎年繰り返し実施する研修や、全国の拠点で同じ内容を学んでもらう研修は、eラーニングとの相性がよい分野です。
一度教材を制作してしまえば、翌年度以降も内容を更新しながら利用できるため、長期的な教育基盤として活用できます。
eラーニングを制作する前に決めるべきこと
制作を始める前に、教材の内容や動画の仕様を決めてしまうと、途中で大幅な修正が発生する可能性があります。
まずは「誰に、何を学んでもらい、学習後にどうなってほしいのか」を明確にしましょう。
対象者と学習目的を明確にする
最初に決めたいのが対象者です。
たとえば「全社員向け」と「新入社員向け」では、必要な説明の量や教材の難易度が異なります。
次に、学習目的を具体化します。
「情報セキュリティについて理解する」だけでは、教材を作る際の判断基準としては曖昧です。
「不審なメールを受け取ったときに、開封せず適切な手順で報告できる」のように、受講後に取ってほしい行動まで落とし込むと、教材の構成を決めやすくなります。
学習目的を整理するときは、以下の項目をまとめておくと便利です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象者 | 新入社員、管理職、営業担当者など |
| 前提知識 | 初心者向け、経験者向けなど |
| 学習目的 | 何を理解・習得してほしいか |
| 到達目標 | 受講後に何ができるようになるか |
| 学習時間 | 1講座あたりの想定時間 |
| 評価方法 | テスト、課題、アンケートなど |
教材形式と配信方法を選定する
eラーニング教材には、動画、スライド、音声、テキスト、テストなどさまざまな形式があります。
すべてを動画にする必要はありません。
知識を整理して伝える内容ならスライド教材、実際の操作方法を見せるなら画面収録、接客や営業の対応を学ぶならケース動画というように、学習目的に合わせて形式を選ぶことが重要です。
また、教材をどのように配信するかも事前に決めておきましょう。
LMSを利用する場合は、制作した教材がシステムに対応しているか確認する必要があります。動画ファイルやHTML教材、SCORMなど、利用するシステムによって対応形式が異なる場合があるためです。
「教材を完成させてからLMSに入らないことがわかった」という事態を防ぐためにも、制作前に配信環境を確認しておきましょう。
eラーニング制作の進め方を5つの手順で解説
eラーニング制作は、大きく5つの手順に分けて進めると整理しやすくなります。
1.要件整理と学習設計を行う
最初に、制作する教材の要件を整理します。
対象者、学習目的、学習時間、教材形式、配信方法、公開時期、予算などを決めます。
この段階では、いきなり動画撮影やスライド制作を始めないことがポイントです。
「何のために作る教材なのか」を整理しておけば、制作途中で内容を追加しすぎたり、不要な情報を盛り込んだりすることを防げます。
複数の講座を制作する場合は、全体のカリキュラムも設計します。
たとえば「情報セキュリティ基礎」というテーマなら、
- 情報セキュリティの基本
- パスワード管理
- メールによる攻撃
- 端末・データの管理
- インシデント発生時の対応
- 理解度テスト
のように学習単位を分けます。
2.シナリオと構成案を作成する
次に、各教材のシナリオや構成案を作成します。
動画教材なら、ナレーション、画面に表示するテキスト、図表、イラスト、実演映像などを整理します。
スライド教材なら、1枚ごとのメッセージを明確にしておきます。
ここで重要なのは、「情報をすべて入れる」のではなく「学習に必要な情報を残す」ことです。
社内資料をそのままeラーニング教材にすると、文字量が多くなり、受講者にとって理解しにくい教材になりがちです。
既存のマニュアルを利用する場合も、オンライン学習に適した構成へ再設計しましょう。
また、制作途中の修正を減らすため、シナリオや構成案の段階で関係者に確認してもらうことも大切です。
3.動画・スライド・テストを制作する
構成が固まったら、実際に教材を制作します。
動画の場合は、撮影、ナレーション収録、編集、テロップや図表の追加などを行います。
スライド教材の場合は、PowerPointなどを使って画面を作成し、必要に応じて音声やアニメーションを追加します。
理解度を確認するため、テストや確認問題も組み込みます。
問題形式には、選択式、○×式、穴埋め式、ケーススタディなどがあります。
特に業務上の判断力を身につけてもらいたい場合は、「正しい知識を覚えたか」だけでなく「実際の場面でどう判断するか」を問う問題を取り入れるとよいでしょう。
4.公開前の確認と品質チェックを行う
教材が完成したら、すぐに全社公開するのではなく、必ずテスト受講を行います。
チェックする項目は、内容だけではありません。
- 誤字脱字がないか
- ナレーションと画面表示が一致しているか
- 動画や音声が正常に再生されるか
- スマートフォンなどでも表示できるか
- テストの正解設定に誤りがないか
- LMS上で受講完了が正しく記録されるか
- リンク切れがないか
- 字幕やテロップが適切か
特に重要なのが著作権や利用許諾の確認です。
画像、動画、音楽、イラスト、フォントなどを外部から取得して使用する場合は、eラーニングでの利用が認められているか確認しましょう。
社内で撮影した動画でも、従業員の顔や氏名などの個人情報が含まれる場合は、利用目的や公開範囲について適切に管理する必要があります。
5.配信後に効果測定して改善する
eラーニング制作は、公開したら終了ではありません。
受講率、修了率、テスト結果、アンケートなどを確認し、教材の改善につなげます。
たとえば、特定の問題だけ正答率が低い場合、そのテーマの説明が不足している可能性があります。
一方、途中離脱が多い場合は、教材が長すぎたり、内容が単調だったりする可能性があります。
「作って終わり」ではなく、「公開→計測→分析→改善」を繰り返すことで、学習効果の高い教材へ育てていけます。
eラーニング制作の方法を比較する
eラーニング教材の制作方法は、大きく「内製」と「外注」に分けられます。
どちらが優れているというわけではなく、教材の種類や社内のリソースによって適した方法が変わります。
内製化が向いているケース
内製は、社内に教材制作を担当できる人材がいて、比較的シンプルな教材を継続的に作りたい企業に向いています。
たとえば、PowerPointを使ったスライド教材や、画面録画を中心とした操作マニュアルなどは、必要なツールを揃えれば社内でも制作しやすいでしょう。
内製化のメリットは、社内の専門知識を反映しやすいことです。
また、教材の修正や更新も自社で行えるため、運用方法を確立できれば長期的なコストを抑えられる可能性があります。
一方で、企画、シナリオ作成、撮影、編集、テスト、LMSへの登録などをすべて社内で行うと、担当者の負担が大きくなります。
外注が向いているケース
外注は、動画の品質を重視したい場合や、大量の教材を短期間で制作したい場合に適しています。
制作会社などの専門業者へ依頼すれば、企画やシナリオ、撮影、動画編集、ナレーションなどをまとめて任せられる場合があります。
特に、映像表現を重視する研修や、受講者に強い印象を与えたい教材では、専門的な制作ノウハウが役立ちます。
ただし、外注先によって対応範囲や得意分野、料金体系は異なります。
見積もりを比較するときは、単純に価格だけを見るのではなく、「どこまで制作費に含まれるのか」を確認しましょう。
企画費、シナリオ作成費、撮影費、編集費、ナレーション費、修正費、LMSへの登録作業などが別料金になっているケースもあります。
eラーニング制作の費用は何で決まる?
eラーニング制作の費用は、教材の形式や制作範囲によって大きく変わります。
特に費用へ影響しやすいのが、以下の要素です。
- 動画の撮影を行うか
- アニメーションを使用するか
- ナレーションを収録するか
- オリジナルのイラストや図表を制作するか
- シナリオを新規に作成するか
- 既存教材を流用できるか
- テストや課題を作成するか
- LMSへの登録作業まで依頼するか
- 教材の本数や総学習時間
- 修正回数や品質管理の範囲
そのため、「eラーニング制作はいくら」と一律に考えるのではなく、必要な制作工程を分解して見積もることが大切です。
予算を抑えたい場合は、すべてを高品質な動画にするのではなく、学習目的に応じてスライド、動画、テストなどを使い分ける方法もあります。
eラーニング制作で失敗しやすいポイント
教材が長すぎて受講完了率が下がる
eラーニングでよくある失敗の一つが、教材を長くしすぎることです。
集合研修で2時間かけて説明していた内容を、そのまま2時間の動画にしてしまうと、受講者の集中力が続きにくくなります。
長い教材は、複数の短い講座に分割する「マイクロラーニング」の考え方を取り入れると改善しやすくなります。
たとえば、1つの長い動画を「基礎知識」「具体例」「ケーススタディ」「確認テスト」のように分割すれば、受講者が空き時間に少しずつ学習できます。
ただし、短くすること自体が目的ではありません。
学習目的を達成するために必要な情報を残しながら、1つの教材で扱うテーマを絞ることが重要です。
既存資料をそのまま教材にしてしまう
社内マニュアルやPowerPoint資料は、eラーニング制作の材料として活用できます。
しかし、資料をそのままオンライン教材に変換しただけでは、受講者にとってわかりやすいとは限りません。
文章中心の資料なら、図解や具体例を追加したり、重要なポイントを動画や確認問題にしたりするなど、学習者の視点から再構成しましょう。
LMSとの互換性を確認しない
教材の完成後に「LMSに対応していなかった」と判明すると、大幅な作り直しにつながる可能性があります。
制作前に、利用するLMSが対応しているファイル形式や教材仕様を確認しましょう。
外注する場合も、使用予定のLMS名と必要な仕様を制作会社へ伝えておくことが重要です。
著作権や個人情報の確認を後回しにする
画像や音楽、動画、フォントなどには、それぞれ利用条件があります。
インターネット上で見つけた素材を「社内研修だから問題ない」と考えて無断利用するのは避けましょう。
また、講師や従業員が映る映像を制作する場合は、撮影・利用・公開の範囲について事前に確認しておくことが大切です。
教材を公開する前に、法務・情報セキュリティ・コンプライアンスなど必要な部署とも確認体制を整えておくと安心です。
eラーニング制作を成功させるためのチェックポイント
最後に、制作開始前に確認しておきたいポイントをまとめます。
- 対象者が明確になっている
- 学習目的と到達目標が決まっている
- 1講座あたりの学習時間を想定している
- 動画・スライド・テストなどの形式を選定している
- 利用するLMSと対応形式を確認している
- シナリオや構成案を作成している
- 著作権や素材の利用許諾を確認している
- 個人情報や出演者の利用条件を整理している
- 公開前のテスト受講を計画している
- 受講率やテスト結果などの効果測定方法を決めている
- 公開後の教材更新・改善の担当者を決めている
特に重要なのは、制作担当者だけで教材を完成させないことです。
現場の担当者、研修担当者、システム担当者、必要に応じて法務や情報セキュリティ担当者などが確認できる体制を作ることで、公開後のトラブルを減らせます。
eラーニング制作に関するよくある質問
eラーニング教材は自社だけでも制作できますか?
制作できます。
特に、既存のPowerPoint資料を活用したスライド教材や、画面録画を中心としたマニュアルなどは、社内のツールを使って制作しやすい分野です。
一方、高品質な動画撮影やアニメーション、ナレーション、複雑な教材開発などが必要な場合は、専門会社への外注も検討するとよいでしょう。
動画だけでeラーニングを作る必要がありますか?
いいえ。
動画はeラーニングの代表的な形式ですが、すべての教材を動画にする必要はありません。
学習目的に合わせて、テキスト、スライド、動画、音声、確認問題、テストなどを組み合わせることが重要です。
最近では、3Dモデルやゲームエンジンを使ったよりリアルなメディアを使ったeラーニングも増えています。学習目標に応じたメディアを選ぶことも必要です。
外注先を選ぶときは何を比較すればよいですか?
価格だけでなく、制作実績、対応可能な教材形式、企画・シナリオ制作の範囲、LMS対応、修正回数、納期、公開後のサポートなどを比較しましょう。
可能であれば、実際の制作サンプルや簡単な絵コンテなどを確認し、自社が想定する受講者に合った品質かどうかも判断します。
また、見積もりを取る際は「何が含まれていて、何が追加費用になるのか」を確認しておくことが大切です。
まとめ
eラーニングを制作するときは、いきなり動画やスライドを作り始めるのではなく、まず対象者と学習目的を明確にすることが重要です。
基本的な制作の流れは、次の5段階です。
- 要件整理と学習設計を行う
- シナリオと構成案を作成する
- 動画・スライド・テストを制作する
- 公開前の確認と品質チェックを行う
- 配信後に効果測定して改善する
また、内製と外注にはそれぞれメリットがあります。社内で制作できる範囲と専門会社へ依頼したい工程を整理し、自社の人員、予算、納期、求める品質に合わせて方法を選びましょう。
特に、LMSとの互換性、著作権、素材の利用許諾、個人情報などは、制作後ではなく企画段階から確認することが大切です。
eラーニングは「教材を作って公開すること」がゴールではありません。受講者が必要な知識を身につけ、実際の業務で行動を変えられる教材になっているかを確認し、データをもとに継続的に改善していくことが、学習効果を高めるポイントです。
自社での制作が難しい場合や、どこまで内製しどこから外注すべきか判断できない場合は、複数の制作会社から相談・見積もりを取り、制作範囲や費用、サポート内容を比較してみるとよいでしょう。
自社の研修内容や目的に合った制作方法を整理したうえで、無理なく継続できるeラーニングの運用体制を構築していくことが、長期的な教育のデジタル化につながります。
Ceriseworksでは、eラーニング制作に関する様々なご相談に乗らせていただいています。お問い合わせページよりお気軽にご連絡ください。


